空のあじ 

ものすごく自分が嫌いでした 

どう嫌いかと言うと
『好かれようとしている昔の自分がものすごく嫌いだった』のでした 

特に小学生の時の
『好かれようとして画策している自分』が本当に今の自分からは受け入れがたくて仕方なかった

当時ものすごい愛情の飢餓状態にあった私は
誰かに好かれようと必死でした

周りを見ては
『好かれている人』の真似や模倣をして

好かれている人の仕草や
好かれている人の言葉や喋り方
好かれている人のブーム
好かれている人の雰囲気などを

それはもう必死に掻き込むというか

ご飯を掻き込むように

アガアガと
それらを飲み込み

なんとか体裁を整えたのが中学の時でした

もう、わかっていたのだ 

私は生粋の『愛され人』ではなく
むしろ『疎まれ人』だったのも十分自覚していた

けれども欲しくて欲しくて仕方なかった、愛情を

眼差しを
慈しみを
安らぎを

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私が自分の脳内で声がすると気づいたのは中学生の頃で
全く違う次元の声というか

自分がまるで喫茶店にいるような、周りが雑踏の中にいるような感覚になることがあって

けれども
居るのは自分の家で

なんで、いま雑踏の中にいるんだろう
なんで会話が聞こえるんだろう

と不思議に思っていました

そのうち、聞こえてくる会話がよく聞き取れるようになり

もしかしたら
これは実際に外の世界なのかもしれないと

自らラジオを合わせるというか
無線のチャンネルを合わせるようにしたら
もっと声が精度を増して聞こえるようになり

もっと人の会話が聞き取れるようになり
そして今度は
聞き取りたいところに意識を向けられるようにもなってきました

けれどもやはりそんなに精度はよくなかったみたいで

聞きたいところの会話はあまりよく聞こえなくて

そのひの体調とかで
どこの場所の会話が聞こえるかとかは無作為に来たようです

また大抵は雑踏の中の声で
静かな場所というより
カフェとか、街中の賑やかなところの会話がよく聞こえてきていました

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異常な食欲に苛まれるようになったのもこの頃からでした

食べても食べてもお腹が減る

そして
なんでも食べられる

底なし腹のように
ただひたすらに食物を体内に入れるようになったのは思春期を超えたあたりからでした

底なしのお腹は
いくら食べてもいっぱいになりません

まるで穴に食べ物を落としているかのよう。

どこまでも続く底がない井戸に
食べ物をひたすら投げ込んでいるような食事でした

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そして家では
気がつくと何時間も時間が経っているなんてこともしょっちゅうでした

その頃、引越しして
やっと1人部屋を与えられたわたしは
小さなストーブで暖をとりながらよく、うずくまって物思いに耽る時間が何よりの落ち着く時間でした

頭の中で
ひたすらに
考え事をするのです

妄想を繰り広げて展開させていくなんてこともよくやっていました

今日あったことを
思い出して
何度も何度も反芻するなんてこともようやっておりました

時間はあっという間に過ぎました

賢い少女たちがするような勉強などは一切手がつかず

わたしはただ
じっと石像のように家に帰ると座り込んで何時間も考え事をするのです

あっという間に時は過ぎて
周りの子達が進路を決める中

わたしの時間はそのまま、石のように固まったままでした 

何をしたいかも口に出せずに

いつの間にか
わたしは 心の底まで石になり固まってしまったのです

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そして『本当の自分の真実』を知っているわたしは
海の深くに沈んでいきました

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陸の上で笑っている自分は自分ではありませんでした

抜け殻の自分が
自分のように振る舞っていて
それはそれで上手く適応しているようでしたが

それはすっかり、空っぽなのです 

本当の自分はそれを
海の底から感じるだけです

石になったわたしの顔から、あぶくが出て

ぷかり ぷかり と水面の光の方へ浮かんでいくらしいのだけれども

そんな泡の方向さえ、石になった自分からは見えません

石になったわたしは
ただ海の底で半分砂に埋もれています 

見開いている瞳も石なのです

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いつか
何か奇跡が起きて

もしかしたら、わたしの石の肺の中に
新鮮な空気が入ることがあるかもしれません

そうしたら、わたしの石の肺は
バリンと割れて
大きな風船のようなあぶくを、ほう、と出すかもしれません

そうしたら
わたしの石の心臓にみるみる桃色がさしてきて

とくんとくんと動き始めるかもしれない

そうしたらわたしの石の体は
海底にいるのが苦しくなって

身体中で新鮮な空気を求めて

一気に水面に向かっていくのだと思う

ざばんと
水面に出た時に

最初に吸う空気はどんな味なのでしょうか

   

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