
――ヒステリーの問い「私はあなたにとって何なのか」
人がカウンセリングに来る理由はさまざまです
人間関係がうまくいかない
恋愛が苦しい
不安が止まらない
自分が何をしたいのか分からない
しかし臨床を続けていると、ある共通の問いに行き着くことがあります
それはとても静かな、しかし深い問いです
それは
「私はあなたにとって何なのか」
この問いは、精神分析では古くから知られています
フロイトやラカンの理論では、これは ヒステリーの問い と呼ばれています
少し不思議に聞こえるかもしれません。
ですが実は、この問いはとても人間的なものです
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例えばこんな場面を想像してみてください
恋人が急に冷たくなったとき
上司の態度が変わったとき
大切な人が自分をどう見ているのか分からなくなったとき
私たちはふと立ち止まり、こう考えます
私はこの人にとって何なのだろう
必要な存在なのか
大事な存在なのか
それとも、代わりのきく存在なのか
この問いは、私たちのとても深いところに触れます
なぜなら、人は他者との関係の中で自分を感じているからです
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赤ちゃんは生まれたとき、自分が誰なのか知りません。
しかし母親や周囲の人が
「かわいいね」
「あなたは大切だよ」
「いい子だね」
と語りかけることで、少しずつ自分を感じ始めます
つまり私たちは、最初から自分を知っているわけではありません
他者のまなざしの中で、自分という感覚が生まれるのです
だからこそ人は、ときどき強く知りたくなります
私はあなたにとって何なのか
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しかしその問いはときに苦しさを生見ます
そして、この問いには少し危ういところがあります
なぜなら、その答えは自分の中にはないからです
答えは、常に「他者の側」にあります
恋人の気持ち
親の気持ち
社会の評価
他人の視線
こうしたものに、自分の価値を預けてしまうと、人はとても揺れやすくなります
少し冷たくされただけで不安になる
相手の言葉に過剰に反応してしまう
「嫌われたのではないか」と考えてしまう
ヒステリーの問いは、人の心をとても敏感にします
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カウンセリングの中でも、この問いはよく現れます
ただしそれは、直接言葉になるとは限りません
例えば
「どう思いますか」
「私は普通ですか」
「私はおかしいですか」
こうした言葉の奥には、ときどき別の問いが隠れています
{私はあなたにとって、どんな存在ですか}
カウンセリングでは、この問いがゆっくりと現れてきます
そして不思議なことに、その問いが動き始めると、
心だけでなく身体にも変化が現れるのです
以前の記事で書いたように
吐き気
下痢
疲労
吹き出物
こうした身体の反応が出ることもあります
それは、心の深い部分が動き始めたサインです
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なぜ人はその問いを持つのか
実はこの問いは、人間の根本に関係しています
人は一人では自分を定義できません
私たちは常に、誰かとの関係の中にいます
子ども
親
恋人
友人
社会の一員
そしてその関係の中で、自分の位置を探し続けます
私はここでどんな存在なのか
この問いは、人生を通して形を変えながら続いていきます
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カウンセリングの面白さは、この問いを直接扱うところにあります。
普段の生活では、この問いははっきりと言葉になりません
忙しさの中で忘れられたり、
怒りや不安の形で現れたりします
しかしカウンセリングでは、その問いを少しずつ言葉にしていきます
すると、自分でも気づかなかった思いが見えてくることがあります
例えば
本当は認めてほしかった
本当は怖かった
本当は愛されたかった
そんなシンプルで、でもとても深い感情です
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自分の心の奥を見るというのは、少し怖いことでもあります
そこには
未整理の感情
古い記憶
言葉にならない思い
が眠っているからです
しかし同時に、それはとても興味深い場所でもあります
なぜ自分はこう感じるのか
なぜ同じことでつまずくのか
なぜこの人の言葉だけが刺さるのか
こうした疑問の奥には、必ず物語があります
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最後になりますが
精神分析の世界では、人間をとても興味深い存在として捉えます
人は単純ではありません
言葉の奥に言葉があり、
感情の奥に感情があり、
そしてその奥に、まだ見ぬ問いがあります
{私はあなたにとって何なのか}
この問いは、ときに苦しみを生みます
しかし同時に、人が自分自身を知ろうとする力でもあります
カウンセリングとは、
その問いを安全な場所で少しずつ見つめていく作業です
そしてその問いが
海の底から、まるであぶくのように、ポカリと浮かんだ時
自分の中に『在るもの』があることに気がつきます
それは自己肯定感とも似ていますが
ある意味、『自分を抱きしめる存在があったことに気がつく』と言ったようなものでしょうか
足場があることに気がつくのです
心の奥をのぞく旅は、
思っているよりも深く、そして興味深いものです







