所有権なんて ない

生まれたばかりの赤ん坊から透けて
繋がっていたそれは

薄い膜で 

何やらこのものは 
薄い膜で包まれた繭のような身体を持った小さきものは

どうやら『生まれたての命』というものだった

私という膜から
他の膜に包まれた『命』が
ぼこりと生まれ出てきた瞬間は

深い海の底から
いきなり
あぶくが
何の前触れもなく ぼこりと出てきたような感じだった

腹の中にいるときには
特に私は何もすることはなかったのに

いざ出てきたのは精巧な人間の形をしたもので

それには
時を刻む小さなハートも備わっていて

指紋やらも小さいながらに
きちんと微かに渦巻いていて

その指先の先にある指紋を見ながら

確かに、細部に神は宿るな と思ったのも覚えている

こんな細かいところに
まつげの先にまで
『命』が透けていて

とかく自分が創り上げたわけでもないのに

気づいたら、私の中のプログラミングがきちんと発動して
人間を一人創り上げたのだ、腹の中で。

もちろん意識的に操作できることなんて一つもなくて

ただ、つわりやら 
妊娠中毒症なんてもんを
ひしひしと感じている間に いつの間にか

私の腹は 人間を創り上げていたのだ

これは もうアパッレとしか言いようがなく

生命が発祥してから数億年もの時間をかけて

あぶく が あぶく を産むが如く
私も、そのあぶく の一つだったのだ

と感じたときに

悠久の繋がりと楔のようなものが
無限にある様子が見えて

『この子は 私のものではない』

という感覚になったのも、良く覚えている

私を『通して』出てきたが
『私のもの』ではないな 

というとても大切な感覚がこの時、芽生えてきて
今となれば、これはとても大事な感覚だったと思うのです

『所有』ということを
クライアントさまたちと考えることがこのところ多いです

『所有』って面白くって

『手に入れた』と思っても
それはまるで、砂のように指の間から 
サラサラと実態を無くして消え去ってしまうようです

唯一、『自分のものかも?』と思えるような
『自分の肉体』でさえ 
時間と共に 
老いて

そのうち 本当に土に還るものでありまして

『結局 何一つ 所有ってできない』というのが
この世界なのかもしれません

人の心も移り行くもので 
『固めておくことはできない』し

もちろん
『自分の美』も崩れゆくし

朽ち果てていくことが『怖い』という感覚が
『所有したい』という欲求を生み出すのでしょうか

所有するには
冷凍保存するしかないのでしょうか