ガスライティング

アメリカで2022年に『今年の単語』として選ばれた言葉があります

日本でいう流行語大賞のようなものですが

その選ばれた言葉は
『ガスライティング』

 

これは『ターゲットをじわじわと追い詰める心理的虐待』の意味を
持つそうです

『対人関係の心理的操作』を表す言葉でもあります

 

言葉のもととなったのは
1944年の映画『ガス灯』からです

(『ガス灯』の映画はU-NEXTなどで(今は無料だった)観ることができます)

 

映画は実にわかりやすくシンプル

海外映画にありがちな
少し捻った言い回しなどもなく
洋画に抵抗のある方でも観ることができると思います

 

簡単なあらすじを申し上げれば

主人公の女性が
結婚をするのですが、
その夫となる人から
心理的にじわじわと追い詰められている様子が全般的に描かれています

その追い詰められ方が

『あるあるだわ・・』

 

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暴力や恐怖で追い詰めるとかではないのです

どちらかというと
『自己不信』に陥るように
夫が小細工のかぎりを尽くすのです

暴力と恐怖で追い詰めると、もちろん健康なターゲットは
自分を守るために逃げてしまいます

夫の目的は『支配』なので
ターゲットが手中から逃げてしまうことは失敗になります

なので、本人が『自分の能力に自信がなくなるように・・』と
仕向けると同時に

能力がない貴方を面倒みられるのは、私ぐらいですよ ← ここポイント


社会と断絶するように仕向ける

 

なのでターゲットは助けを求めることを躊躇い
自分を恥ずかしく思ったり
自己嫌悪で声が出せない

{私は正気ではないのかも・・ 自分がおかしいのかも・・}

と自分自身を疑ってしまうようになる

 

そして相談や助けは
不本意ながら夫に求めるしかない

ーーーー あれ、これ 既視感あるなあ・・・

 

あまり自己開示をしすぎるのもアレですが

私もこの『自信を失わされる』と
『自分を信じられなくさせられる』という経験はあります

よく覚えているのが

前の夫が
外の世界ではとても社交的なのに
私の前では特に話そうともせずにつまらなそうにする

会話をしようとしても
特に会話が膨らむわけでもなく
一方的に私がボールを投げかけるだけで
そのボールに見向きもせずにいるのです

 

よく私は尋ねたものです

『外ではよく喋って、自分からすぐに人助けをして、楽しそうなのに
家ではなんで助けてくれないしそんなにつまらなそうなの』

そうすると言うのです

『気のせいだよ』

 

でも明らかに、外の世界で見る夫とは別の人間のようで
本当のそれが不思議で
実は最後の最後まで、それが支配だとは気がつきませんでした

 

依存症専門の大家、齋藤学先生は
『外面のいい夫は、妻を壊す』と言っていましたが

その意味に気づいたのは別れてから数年後のこと。

 

どうして他人のことはよく助けるのに
家族のことは助けてくれないのか?
と尋ねる私に

夫は『助けたくないわけではない むしろ助けたいんだ
でも助けたら、君は怠けてしまうだろう だから助けないんだ
君は努力が足りないんだ』

と言われて

見事にその催眠にかかってしまったわけです

 

そうか、私は努力して認めれたら 助けてもらえるんだ

と思い込み

なんとか相手に怠けていると認定されないように緊張して過ごすようになります

努力すればいつかは助けてくれると期待して

かなりのハードワークをこなすようになります

 

誰にも労われることがなく生きてきて

次第に身体が動かなくなり

そしてその数年後に
初めてスーパーバイザーに会った時に

『よく頑張ってきましたね かなりの努力家ですね』
と言われても

いやいや足りないんです・・と思っていました

 

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自信を失うようにさせられてしまうというケースは
親子・夫婦カウンセリングでよくみられる構造です

しかし不思議なところは
何故支配する方が、そんな手の込んだことをターゲットにするのかというところです

 

もちろんカウンセリングにも
『支配したい』という方はいらっしゃるのですが

どうやら1人では、充足を味わえないらしいです

というよりも
他人を従えることに快感を覚えるという性質を持っていらっしゃるようです

 

『力への渇望』と言ってもいいかもしれません

 

しかし1人の力では知れていますから
支配したいという欲求を持つ方の矛先は
『他人の力をも自分のものとしたい』というものに変わります

我々のカウンセリングでは『性的倒錯』ということを
カウンセリングの裏テーマとして持っておりますが

他人を支配することが
生きている中での上位概念の方はいらっしゃいます

誰かを幸せにしたいというものならまだしも
(いや、実際ここでも注意が必要で
幸せにするという名目で、実は相手を堕としているということは
よくあるのだけれども)

ほとんどの支配したい方々は
劣等感と、自己充足が混在しているために

相手(のもの)は欲しいが
でも自分より優れているのは許せない

だから『この相手をコントロールすることで自分の快感を追求する』
という捻れた現象が起きているのをよく見かけます

 

自分自身の『快感』を追求していくと
自分がどちら側だか理解しやすいような気がします

人間の行動原則は『快の追求』にあるので

自分の行動原則が
『個人的充足』・・1人でも楽しめることがあるかどうか
だったらあまり心配は無いかもしれないですが

他人より勝ちたい
とか

他人から賞賛を浴びたい

など
自分の快感を追求する上で

他人が必要不可欠になってしまう場合は
自分自身に注意が必要なことがあります

 

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この映画の場合は
支配する側の人間には『ある目的』があったために

どちらかというと人を支配する目的の人間だけではないように感じましたが

しかし手口は
見事なくらいの支配者のやり方でした

人を見る眼差しだとか、まさに
こういう顔するわ・・と感嘆する演技でした

この顔は、支配するときは相手に見せませんが

ふとした拍子に出ちゃうもので

これが出ると『おー出たでた!』と思います

 

表情って
やはりコントロールするのが難しいのでしょうね

どんなに隙がないようにしていても

冷酷さを持ち合わせていると
ふとした瞬間にそれは漏れてくるようです

 

見分け方は、今書いた通り
例えば、誰にも見られていない瞬間に
急に冷酷な顔になるとか

笑顔から真顔までの切り替わりが早いだとか
(健康な人は笑顔から真顔までゆっくりと自然に以降する)

自分が視線を外して
ふと顔を上げて相手の顔を見ると、こちらが凝視されていたとかがあります

 

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一方の支配される側ですが

外部との接触を断たれるということを強制されるのが一般的です

心の交流を
自分以外とすることを『支配する側』は許しません

なので、不幸なことに『病気』にさせられてしまうということも
よく見られます

実際に身体の不調として出てしまう場合もありますし
心が落ち着かない、不安、急に悲しくなる、いたたまれない、恐怖
などの感覚に襲われるようにもなります

 

支配する方は、ターゲットの環境にもかなり見張っており

例えば異性との交流は、かなりの割合でカットインしてきます

また性的な成長に対して
汚らしいという感覚を入れてきたり
罪悪感を覚えるように仕向けてくるのが多いのです

 

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また具体的なガスライティングのテクニックとしては

① 否認・・加害側が自分の行動に責任を持たないということです
悪いのは加害者であると言う時さえ、堂々としらばっくれます

細かいことは忘れたふりをする
責任転嫁する  真っ赤な嘘をつく

 

(あーーこれ経験あり。酔っ払って帰ってくるなり家中に糞尿を撒き散らされて
次の日に片付けてと言ったら
『俺じゃない、やったのお前じゃないの』と言い張られたこと思い出す )

 

②聞こえないふりをする・・ 相手の言っていることに対して『わけがわからない』とか
聞こえないふりをして、わからないそぶりを見せる方法です

これ、私の母がやっていて、トラウマ治療の初期の頃に
『暴力したことだけでも謝罪して』と
お願いしたら『ぐちゃぐちゃと言われて言ってることがわからない』
と言われて驚いた経験あり。

こちらとしては『嘘でしょ?記憶ないの?』となり
{え・・あんなに鮮明に覚えてるのにあの経験は私の被害妄想だったの?}
と自分を疑ってしまう

 

③ 矮小化・・・相手に自分の考えや望みは分不相応でやりすぎだったと思わせること。
被害者が自分の思いを伝えている時に鼻で笑ったり
『大袈裟』『感情的すぎる』『図々しい』などと言って軽んじること。

 

④価値下げ・・・情報源を疑ってみせることで信ぴょう性に疑問を抱かせるというもの。
『誰から聞いたの?』
『どうせインターネットを鵜呑みにしてるのでは?』
『すぐ信じるから・・』
などと言い
本人が繋がっていたものとの断絶を図りつつ、本人自身のことすらも
『そんなもの信じて軽薄な・・』などと落とすダブルテクニックでしょう

ちなみにこれに対しては私は強い💪
『お前が信じてるものも、たいがいだわ!!』と言える

『無知の知』をいつも肝に銘じる姿勢は大事であります

 

⑤ 無効化・・・事実を裏付ける証拠がある時でさえ、出来事の記憶を疑ってみせることです
本当に起きたことでさえ『相手が忘れていることだろう』と決めつけて
しばしば被害者の記憶が悪いだとか
『こいつは頭が悪くって・・』などと
出来事自体を記憶している本人の信ぴょう性を揺らがせるようなことを仕向けてきます

 

⑥ステレオタイプ・・性別、人種、民族性、セクシャリティ、国籍、年齢、学歴などの
固定概念を利用して
『普通、女性ってものは・・』とか
『子供は親の言うことを聞くものだ』など過度な一般化を後ろ盾にして
相手のことを
『怒りすぎる』
『感情的すぎる』
『信用に値しない』と天秤にかけて根拠を示そうとします

 

⑦ 論点のすり替え・・・悪事を働いた証拠を突きつけられた時に起こるものですが

自分のしたことを認めずに相手のミスを持ち出してコントロールを取り戻そうと
する行為です
『僕を責めている君は酷いよ』とか
『あなたに責められてこんなに私は悲しい思いをしているのに
あなたはそれでも私を追及してくるの!?』

などなどです。逆ギレとは違い
むしろ『苦しんでいるのはむしろ自分。こんな目に合わせている貴方は
ひどい!!』みたいな罪悪感を持たせるように仕向けてきます

以上のものはテクニックとしてあるものですが

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実際にガスライティングによる支配を進めるには段階というものがありまして

まずの第一歩は
❶ 嘘と誇張
ターゲットに対してネガティブなストーリーを創り出すことから始まります

初期の段階として、ガスライター(加害者)はターゲットを最も不安にさせるものは
何かを探る段階です

『君はぼくのことなんてどうでもいいんだね』とか
『私のことなんて、気にしてくれないのね』という言葉を投げかけて

ターゲットが、罪悪感を感じるかどうか
を探りにかかってきます

加害者が最も相手をコントロールする際に注意深く探るのは
『相手がどれだけ自分のことを重要視するかどうか』なのです

被害者になりやすい方は相手を傷つけたくないという潜在的な恐怖感を
持っている方に多いと思われます

 

❷繰り返される嘘と誇張
もし❶の段階が一度きりであったりするならば、それは情緒的コントロールや
ガスライティングに進展する可能性は低いかもですが
相手の目的が『コントロール』出会った場合は、その行動は繰り返されるはずです

このやり取りの際に『え、なに、心配して欲しいの?』など
気にも留めないそぶりや、罪悪感を感じない様子を見せたら
加害者側はすぐにターゲットを替えるということもみられます

 

❸反論するとエスカレートする
ガスライターたちは反論されるとガスライティングのテクニックを駆使して
強く反応します

カスライターたちの否認は信じられないくらい強いのです

しかし『(ガスライターにより創り出された)出来事』は起きているにも関わらず

『私は傷ついた』『僕をこんなに悲しませる君はおかしい』などと言い

『自分を悲しませる貴方が悪い』という一貫したメッセージを伝えてきます

話が成り立たない・・と感じたらばそれはもしかしたらテクニックに嵌っている恐れがあります

 

❹ ターゲットを消耗させる
加害者がターゲットをコントロールし続けるのに最も効果的なのは
相手のアイデンティティと現実感を奪うことです

この段階では加害者は被害者のエネルギーを消耗させるために攻撃し続けます

『私がおかしいのだろうか・・』と思わせることがゴールです

 

❺ 共依存
この段階ではターゲットとなる被害者は
自我を疑うようになり、行動・情緒・承認・などの全ての許しを
加害者に委ねるようになります

『いつでもこの関係を終わらせてもいいんだからな』と
脅しが出てくるのもこの段階。

 

❻偽りの希望を与える
被害者も、責められ続けたら流石におかしいとなりますが
ガスライターの巧妙なところは断続的に希望を与えるところです

表面的な優しさや反省を見せるということをします

『貴方をこんなに愛しているのは私だけだよ』とか
『可愛いから怒るんだよ』
『君にだけはわかってほしいんだ』

などと二者間での特別感を与えてこようとするのがポイントです

 

支配とコントロールには、この『偽りの希望』が不可欠です

また被害者の方は、
『このような寄り添いの姿勢があるのであれば今は辛くてもこれを乗り越えたら楽になるのでは・・』と
思い込んでしまうのです

 

冒頭に書きました『自分にはないけれども他者への寄り添いはある』もこれに充当すると思います

『この人には優しさがあるのだ・・』と誤った理解をしてしまい
『優しさをもらえない自分が劣っているのだ』というケースは

斎藤学先生の『外面がいい夫は妻を一番壊す』というものと近しいのだと感じます

しかし実際に外面がいいのは
『自分が得をするから』という動機からになります

他者から称賛されていれば、称賛されている自分が言うことは凡そ『正しいのだ』と
いう体制をとれるからです

 

❼支配とコントール
最終段階に達すると、究極的なガスライティングは
被害者の感じ方、行動の仕方を完全にコントロールして手中におさめることです

『操り人形を得た』という満足感は尽きることはなく
ガスライティングは新たなターゲットを探しに行きます

一方の操り人形になってしまった被害者は
常に不安、疑念、恐怖の世界観の中に生きるようになってしまいます

 

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ガスライティングという言葉がアメリカの2022年の流行語大賞のようなものに
なったという現在において

世界のあちらこちらで、『アンバランスな人間関係』というものが
ようやく注目されてきたのだと実感があります

 

私たちが幼少期の頃は
『所有をして豊かになる』ことが最重要項目でありましたが

その『所有の豊かさ』が幻想なのでは・・
と疑い始める人も多くなりました

私たちが小さい頃から、『普通』と思ってきた人間関係も
もしかしたらどこか歪んだものを含んで構成されているのかも知れないと

また、そのアンバランスさの最中で
思ってみたりもするのです

 

 

長くなりましたが
少し次回のブログまでお時間をいただくとして

今までの人生において
自分自身も含めて、周りに歪んだ関係性が無かったか

ガスライティングという関係性に
縛られていたのではないか

など思いを馳せていただくのもいいかも知れません

   

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