深淵を覗く

依存症や摂食障害などを治癒させるには
『底つき体験』をすることが必要だとよく言われます

それはどういうことなのかというと

否認してきたことを自覚して
現実を直視して
現実を受け入れるというプロセスのことなのですが

この『底つき体験』は非常に危険を伴うものです

何故なら
その人が『自分を支えてきたもの』が『幻』だったと自覚すること
だからです

 

例えばアルコール依存の人というのは
『自分のことを受け入れられない』というところから
アルコールの力で『自分が大きく見える』という幻を手に入れます

アルコールの力が
すなわち『自分の力』になるわけなのですが

アルコールがなければ
『本当の自分自身』を直視しなければなりません

『本当の自分自身』というものは
どなたもそうですが非常に、弱く脆いものです

 

全員に言えることですが
人、ひとりという単位で自分を感じることは困難です

人は1人では自分を感じることができません

例えば『自分のことを紹介してください』と言われた時に
おそらく誰もが自分のことを言い表す時に
『他人との比較』で自分を表現するものです

その他人との比較を無しに
『唯一無二の自分だけ』というものを感じることは
とてつもない虚無感と孤独感が襲ってくるはずです

 

依存症の人というのは
その虚無感と孤独感を
どこかしらでいつも感じてしまうという器質をお持ちなのではと
カウンセリングでは感じています

健康な人間というのは
どこかしら(良い意味で)鈍感で、あまり自分自身のことを掘り下げる能力がないか

もしくは、そこに注目することをしない、という器質があるのかな
ともお見受けしております

あまり深いところまで思案しないというのが
健康のコツなのかなと思っております

 


カウンセリングにいらっしゃる方というのは
生まれながらにして
深く物事を考えてしまう器質であったり

分からないことを、分からないまま持ち続けてしまい
「いずれ忘れてしまう」ということが困難な方なのかなとも
思うのです

どちらの人生が
いいのか分かりませんが

いずれにせよカウンセリングにいらっしゃる方の多くは
とてつもない深い『問い』や『深淵』のようなものを抱えている感覚があります

 

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『問い』を持つということは非常に苦しいものです

簡単な問いなら良いのですが
ほとんどの問いというものには答えがありません

例えば 1たす1は2 という命題があっても

1とは何か? という問いを持ってしまった場合
それに答える答えというのは
なかなか難しいものです

1とは『在る』とか

1とは『一つ』という個数だとか

1とは・・

などと考えるだけでも多数の答えが出てきてしまします

そこの坩堝(るつぼ)に
はまってしまったら、それはもう
あちら側への扉が開いてしまうのです

 

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アマゾンの奥地に生きるピダハン族という民族があります

彼らは『過去、未来』の概念が存在しないという民族です

なので故人の死を弔うことも
先祖を敬うことも
神話もないのです

彼らの言語に『未来 過去』を表す言葉もない

なので保存するという概念も持たず
未来に食事を持ち越すという考えが発生しないのです

 

また驚くべきことに『他人 自分』の区別を表す言葉もないのです

人と人の関係性を円滑にするための『挨拶』の言葉もなく

他人と自分の境界があやふやなままで
むしろ運命共同体の同一だと感じるままの民族なのです

それはすなわち負い目を相手に対して感じることもなく

また自分を個別のものと捉えないために
損得勘定が生まれにくい

そしてピダハン族の人々というのはよく笑うそうなのだ

もしかしたら
取材をした人たちが恣意的に
この民族の人たちの生活の一部分だけを切り取って伝えているということも
在るかもしれないが

 

でもこの、時間の概念がない
他者と自分の区別がない

と想像してみると、面白い現象が自分の中に立ち昇って起きてくるのです

瞑想や禅などの境地に近い感覚ですが
まさに『今 ここ』 だけの感覚と言いましょうか

私は悟ったわけでもないので
適切な言い方なのか分かりませんが

在る場所に在る感覚と言いましょうか

これ以上でもない
これ以下でもない

ただ在るだけよなあ・・・

みたいなプカリと浮かんでそれだけを感じている感覚

この境地は
言ってしまえば
苦難や苦渋などが幻だったんだなあ・・

みたいな感覚

 

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さて、話を戻すと
問いも持つというのは

言葉を理解し始めて
そして『自分』というものを他者とは区別されたものを感じ始めてから
発生し始めるものです

『死んだらどうなるんだろう』などは
『自己を喪失したらどうなるんだ』となるのですが

それは『自分』というものが『自分のもの』と認識しちゃったが故の
問いなのであります

自分で自分のことを
なんとかできる

という体験から、

それでは自分でなんとかできないものは・・という眼差しから
発生するものです

人間の歴史は
その『いかんともしがたい問い』が
非常に人間の人生を揺さぶるものだと、己自身で感じて

その結果『宗教』などで答えらしきものを創り上げ提示しましたが

実際に科学などが進んでくると
『問い』がまた一層『問い』になってしまうという
恐ろしい顛末になってきているわけです

 

なので先のピダハン族の話になるのですが
概念自体が人間を追い込むことになっているということに
人間は気づかなくてはならないなと感じる訳です

概念というものは
知能を発展させ
科学で追求し

森羅万象などの未知数なものに、秩序をなんとか見出そうとする
人間の足掻きでもありますが

でもその『足掻き』が美しい文化や眼差しをも生み出しているという
側面もあります

 

でもその秩序を遵守しすぎて
間に受けすぎて
そして、その秩序の中に『答え』があると信じてしまったが故に

自分の奥底への体験と
日常の喧騒や秩序などとの

ギャップがどうにも合わないままで

その結果、その奥底の体験を忘却の彼方に押しやろうとして
何かに依存するのではと思うのです

 

河合隼雄先生が
(記憶が不明で申し訳ないが)

確か、依存症の問題を抱えている人というのは
『神との問題を抱えている人だ』

というようなニュアンスのことを言っていたのだけれども(元の文献を探せずで すみません)

それは
自己の中に非常に深い『問い』を抱えたままで
そしてそれを持つことも辛く

そしてそれの解決になる『神(この場合は神の概念とのすれ違いが生じているとの理解をしてます)』との
関係が不安定だということ

 

なので、ではどうすればいいのかというところで

『底つき体験』をして
『結局、頼れるものは自分だけだ』という最後の気づきが
必要だとか

『自分自身への偽りの万能感に気づくこと』で
等身大の自分に気付けるだとかで

現実の受け入れを始めるということを促すというものなのだけれども

でも
この現実の受け入れとは
非常に、1人では苦しいものなのです

 

なので
カウンセリングでは
『底つきになる前から、他所を上げる⇧』ということをし始めます

来たるべき時に備えて
色々と手筈を整えておくのです

それは適切で、もっと健康的な依存の場所をたくさん作っておいたり

搾取し合うような依存ではなく
健康的でかつ開放的な『依存』という形を
それぞれのクライエント様にあっている形で模索していくということを
並行していやっていくのです

また『問い』などに対する
奥底の不安感や恐怖感、孤独感も安全に癒していきます

 

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高之瀬との話の中で出てくる 弁護士の界隈で言われる『底つき体験』は
それこそお金が無くなり 住む場所も無くなり 家族にも見捨てられて・・最終的に何らかの犯罪を犯して留置される 実刑を受ける
というような『生活での底つき体験』です

この場合の底つき体験は
『環境の底つき』で、『精神の底つき』ではないので

それこそ医療につながることもできなかったり
犯罪に手を染めてしまったりして非常に危ういことになります

簡単に底つきとは言いますが
それこそ『どん底』にあえてさせられてしまう・・というところから
自力で這い上がれという苦しいことになってしまうのです

 

カウンセリングで目指すところの底つきは
安全に『恐怖のもと』を一緒に見据えていくということです

お金がなくなるだとか
家族に見捨てられる・・などという体験から学ぶというよりも

『自分の心の心の奥底はどうなっているのか』
という
心の深淵を一緒に潜って見にいくのです

 

素潜りとよく似ていて
最初は、少し自分の心の底を見ただけで
息が上がってしまい
バクバクするものですが

そのうちに長く静かに潜っていけるようになります

そうして
そのうちに
深い底に、『本当の自分』を見つけることができるようになります

最初は、そんな自分を放っておきたくもなるくらいの
苦しみを感じるものですが

でも、見ないように気づかないようにしていても

奥底から、自分のことを呼ぶ声が

扉をノックする音が聞こえるものなのです

 

それを私はカウンセリングで
『失われた自分を迎えに行こう』と表現します

 

いずれその自分を迎えに行った時に
その自分と出会った時に

自分と自分が出会う訳ですから
ものすごい力と力が拮抗し、すごいエネルギーを生み出すのです

その力が、あなたの本来の持っていた力であります

   

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